市街化区域内にある農地(市街地農地)は、「農地だから安く評価される」とは限りません。倍率地域にある場合でも、評価倍率表の「田」「畑」欄が「比準」と表示されていれば、近隣の宅地と同等の水準で評価され、固定資産税評価額を大きく上回ることがあります。相続の対象に市街化区域内の農地が含まれる場合は、まず評価倍率表の表示を確認し、評価方法を取り違えないことが出発点になります。
なぜ市街化区域内の農地は宅地並みに評価されるのか
農地は、農地法や都市計画法によって宅地への転用のしやすさが異なるため、財産評価基本通達では転用の難易度に応じて、純農地・中間農地・市街地周辺農地・市街地農地の4種類に区分して評価することとされています(評基通34、36〜40)。
このうち市街地農地は、市街化区域内にあり、農業委員会への届出のみで宅地に転用できるなど、宅地化しやすい農地です。宅地に転用しやすいということは、取引価格も宅地に近い水準で形成されます。そのため市街地農地は、現況が農地であっても、宅地としての価額を基準に評価する「宅地比準方式」で評価するのが原則とされています(評基通40)。
純農地・中間農地が固定資産税評価額に倍率を乗じるだけで評価できる(評基通37、38)のとは、考え方の土台が異なります。「畑のままだから安い」という感覚は、市街地農地には当てはまりにくいといえます。
倍率地域では評価倍率表の表示で評価方法が分かれる
市街地農地の評価でとくに注意したいのが、倍率地域(路線価が定められておらず、固定資産税評価額に倍率を乗じて評価する地域)にある場合です。倍率地域の市街地農地は、評価倍率表の「田」「畑」欄の表示によって、評価方法が2つに分かれます。
「比準」と表示されている場合(宅地比準方式)
評価倍率表の「田」「畑」欄に「比準」「市比準」などと表示されている地域は、付近の宅地の価額に比準して評価する「宅地比準方式」で評価する地域とされています(評価倍率表の説明・国税庁)。この場合の評価額は、次のように計算します。
評価額 =(その農地が宅地であるとした場合の1平方メートル当たりの価額 - 1平方メートル当たりの宅地造成費)× 地積
倍率地域では路線価がないため、「宅地であるとした場合の1平方メートル当たりの価額」は、対象農地に最も近接し、位置・形状などが類似する近傍宅地の固定資産税評価額に、宅地としての評価倍率(評価倍率表の「宅地」欄の数字)を乗じて求めます(No.4623 農地の評価・国税庁)。近傍宅地の固定資産税評価額は、市区町村の固定資産税担当課で確認することになります。
具体的な倍率が定められている場合(倍率方式)
一方、「田」「畑」欄に具体的な倍率の数字が定められている地域では、その農地の固定資産税評価額に、その倍率を乗じるだけで評価します(評基通40ただし書き)。この場合は宅地造成費の控除を行いません。市街化区域内の市街地農地について、地価事情の類似する地域ごとにあらかじめ倍率が定められている場合に使える、簡便的な評価方法です。
つまり、同じ「倍率地域の市街地農地」であっても、評価倍率表が「比準」を指定しているのか、具体的な倍率を定めているのかで、造成費を控除するかどうかが変わります。この確認を省くと、造成費を引き忘れて過大評価になったり、逆に本来引けない造成費を引いてしまったりする誤りにつながります。評価倍率表は「宅地」欄と「田」「畑」欄の両方をセットで確認する必要があります。
造成費の控除は効果が大きいが、面積の算定に専門性が要る
宅地比準方式で控除できる宅地造成費には、整地費・伐採抜根費・地盤改良費・土盛費・土止費といった項目があり、その単価は国税庁が都道府県・年分ごとに「宅地造成費の金額表」として公表しています。相続や贈与のあった年分の金額表を使う点に注意が必要です。
この造成費の控除は、評価額に与える効果が大きい一方で、控除できる面積を正しく算定するには相応の専門性が必要です。たとえば土盛りや土止めが必要な範囲、傾斜地に該当するかどうかは、金額表を眺めるだけでは決まらず、対象地の現況の確認が前提になります。控除を適切に行わないと、宅地並みの高い評価額のままになってしまうおそれがあります。市街化区域内の農地の評価は、宅地の評価に近い難しさがあるといえます。
数十年で「地域が変わる」ことによる評価の変動
もう一つ見落としやすいのが、時間の経過による区域区分の変化です。市街化区域・市街化調整区域といった区域区分は、一度決まったら固定されるものではありません。都道府県は都市計画区域についておおむね5年ごとに都市計画基礎調査を行うこととされており(都市計画法6条1項)、その結果が区域区分の見直しの基礎資料になります。
そのため、数十年という単位で見ると、前回の相続の時点では市街化調整区域だった土地が市街化区域に編入されていたり、周辺の宅地化が進んで近傍宅地の価額そのものが上がっていたりすることがあります。前回の相続では大きな評価額にならなかった土地でも、次の相続では想定を超える評価額になっているケースがあり、実務上の注意点といえます。
そのほかの注意点
市街地農地が宅地であるとした場合に「地積規模の大きな宅地の評価」の対象規模(三大都市圏では500平方メートル以上、それ以外の地域では1,000平方メートル以上など)を満たすときは、倍率地域の市街地農地にもこの規模格差補正を適用できるとされています(評基通20-2、No.4609・国税庁)。広い農地の場合は、この適用の余地も検討することになります。
また、宅地への転用に多額の造成費がかかり、宅地比準方式で計算すると評価額がかえって低くなりすぎるような立地では、近隣の純農地に比準して評価することとされています。急傾斜地や、法令上の造成制限がある土地などが該当します。
なお、農業を継続する場合には相続税の納税猶予の検討余地もありますが、市街化区域内の農地の取扱いは地域によって異なるため、個別の確認が必要です。
まとめ
市街化区域内の農地(市街地農地)は、「農地だから安い」「倍率地域だから固定資産税評価額に倍率を掛けるだけ」という思い込みが通用しにくい財産です。とくに倍率地域では、評価倍率表の「田」「畑」欄が「比準」表示か具体的な倍率かで評価方法が分かれ、比準表示の場合は宅地並みの評価から造成費を控除する形になります。造成費の控除は評価額を大きく左右する一方で、面積の算定には専門性が求められます。さらに、区域区分は数十年で見直されることがあり、前回の相続時の評価がそのまま当てはまるとは限りません。
当事務所では、相続を見据えた土地の評価・対策のご相談を承っています。市街化区域内の農地をお持ちで評価に不安がある場合は、お気軽にお問い合わせください。