ホールディングス-子会社間の経営指導料、契約書に「月額いくら」だけでは足りなくなります

結論:契約書に「経営指導料 月額いくら」としか書いていないなら、根拠の整理を

令和8年度税制改正で「関連者間取引に係る書類の整理保存の特例」が創設されました。令和8年4月1日以後に開始する事業年度から、内国法人がグループ会社などの関連者との間で経営指導料や業務委託料といった取引を行う場合、契約書や請求書に対価の計算根拠が記載されていないときは、その不足事項を明らかにする書類(特定事項記載書類)を取得・作成し、7年間保存することが求められます。

とりわけホールディングス(持株会社)体制の企業グループでは、HDが子会社に請求する経営指導料が代表的な対象になります。契約書に「経営指導料 月額○○円」としか書かれていない場合は、この特例への対応が必要になると考えられます。この機会に、算定根拠が曖昧なままになっている社内・グループ内の契約を早めに整理しておくことをおすすめします。

ホールディングスが子会社に経営指導を提供し、子会社が経営指導料を支払うという取引が、令和8年度改正の書類保存特例の対象となり、契約書に対価の計算根拠まで残す必要があることを示す構図ホールディングス経営指導・管理機能子会社事業を運営経営指導(役務の提供)経営指導料の支払この取引が対象対価の根拠を書類で残す令和8年4月1日以後開始事業年度の関連者間取引に適用(法規則59条の2・67条の2)

なぜこの制度が生まれたのか

グループ会社間の取引は、資本関係のない第三者との取引と違い、価格や費用負担の決まり方が外から見えにくいという特徴があります。経営指導料やシェアードサービス費のように、“身内”の間で金額が決まる取引では、取引の実態や対価の妥当性を外部から検証しにくいという課題が以前から指摘されてきました。

これまで国外の親子会社間取引については移転価格税制で対応してきましたが、今回の特例は国内のグループ内取引にも書類の整理保存を求めるものです。関連者には、発行済株式等の50%以上を直接又は間接に保有する関係その他一定の特殊の関係にある法人が含まれるとされており、国内法人同士のグループも広く対象になります。

制度の中身:何を、いつまでに、どのくらい保存するのか

対象となるのは、関連者が行う工業所有権等の譲渡・貸付けと、関連者が行う一定の役務提供のうち、販売費・一般管理費などの費用の額の基因となるものです。経営指導料はこのうち役務提供に該当します。

法人税基本通達17-3-10では、経営の管理又は指導等に係る役務提供の例示として、事業計画の策定・業績管理・内部管理体制の整備についての助言又は指導、人事・労務・法務・財務などの業務運営に関する専門的知識・経験に基づく支援、事業運営に資する情報の定期的・組織的な提供が挙げられています。HDが子会社に対して行う経営指導は、まさにこの例示に沿った内容です。

保存すべき書類は、その取引を行った事業年度の申告書の提出期限までに取得又は作成し、起算日から7年間、納税地等で保存することとされています。対象は青色申告法人に限らず、白色申告法人を含む普通法人等にも同様の特例が設けられています(法人税法施行規則59条の2・67条の2、法基通17-3-11)。

ここで重要なのは、取引内容の全てを書類化する必要はないという点です。法基通17-3-6は、特定事項記載書類は既存の書類で不足している事項(特定事項)を明らかにすれば足りるとしています。さらに法基通17-3-7では、契約書・請求書・計算資料など複数の取引関係書類を総合して必要記載事項を確認できる場合には、特定事項記載書類の取得等は不要とされています。既存資料で説明がつくなら、新しい書類を一から作り直す必要はありません。

実務ではこう見ています

該当する典型例は、やはりホールディングス化している企業グループの経営指導料の算定です。

契約書等に「経営指導料 月額いくら」としか書いていないような契約書は、この要件を満たさないことになります。ホールディングスが子会社に対して一体どのような業務を提供するのか。一言で経営指導と言っても、どのような内容の指導を、誰が行い、その金額の計算根拠はどのようなものなのか。そういったことを明示しなければならないというルールになっています。

経営指導料の契約書が月額いくらだけの記載では特定事項が生じ、業務内容・担当者・算定根拠の3点を加えれば要件を満たすことを示すビフォーアフター図月額いくら、だけ経営指導料月額 ○○円何を・誰が・どう計算したかが書類から読み取れない不足を補う書類が必要3点を加える業務内容(何を指導するか)担当者(誰が行うか)算定根拠(どう計算したか)要件を満たす

さらに視野を広げると、ホールディングス体制では経営指導料だけが論点ではありません。子会社がホールディングスに対して支払う事務所の家賃をはじめ、グループ内のさまざまな契約についても、その根拠を保存することがますます重要になります。もし曖昧な基準のまま運用している契約があるのなら、これを機にすべての契約について明確な基準を早急に整理しておく必要があると考えられます。

対価の計算根拠は、たとえば対象となる人件費を売上高比で配賦する、稼働時間に単価を乗じる、といった形で、第三者が見て納得できる算定方法を書面に残しておくことが実務的な対応になります。既存の契約書に加えて、毎月の請求明細や算定根拠を示す資料をあわせて保存しておけば、多くのケースで対応できると考えられます。

注意点:書類がないと即・経費否認、ではありません

この特例をめぐっては、いくつか誤解も見られます。

一つは、書類の不備がそのまま損金否認につながるという誤解です。事務運営指針では、特定事項記載書類の保存等が行われていないことのみをもって、関連者間取引に係る費用の損金算入が直ちに認められなくなるものではないとされています。あくまで書類保存の義務であり、課税関係は帳簿書類その他の資料から実態を把握して判断されます。

もう一つ、青色申告の取消しとの関係です。この特例に基づく保存義務は青色申告法人の帳簿書類保存要件に含まれるため、違反は取消事由になり得ます。ただし事務運営指針では、保存等の有無のみで取消処分の要否を決するのは青色申告制度の趣旨に照らして適切とはいえず、違反の程度その他の事情を踏まえて判断するとされています。違反が軽微な場合には、取消処分を行わず改善指導にとどめることができるともされています。「書類がなければ即取消し」ではありませんが、放置してよい話でもない、という位置づけです。

まとめ

令和8年4月1日以後開始事業年度から、HDと子会社間の経営指導料をはじめとする関連者間取引は、対価の計算根拠まで書類で示せる状態にしておくことが求められます。既存の契約書・請求書・算定資料で説明がつくなら新規作成は不要ですが、「月額いくら」だけの契約書のままでは不足が生じる可能性が高いといえます。適用初年度を迎える前に、グループ内契約の棚卸しをしておくとよいでしょう。

当事務所では、グループ内取引の契約・書類体制の整備に関するご相談を承っています。気になる点がございましたら、お気軽にお問い合わせください。

← 記事一覧へ戻る