免税事業者などからの仕入れに係るインボイスの経過措置は、令和8年10月1日から控除割合が縮小します。ただし、当初予定されていた「50%控除」ではなく、令和8年度税制改正で新設された「70%控除」が適用されます。免税事業者との取引がある事業者は、この前提の変化をまず押さえてください。
そのうえで、控除割合が今後50%、30%と下がっていくフェーズを見据えると、事業者によっては簡易課税制度への切り替えを検討する価値があります。簡易課税制度は届出のタイミングが遅れると適用できなくなるため、早めの判断が重要です。
そもそも経過措置とは何か
インボイス制度(適格請求書等保存方式)では、原則として、適格請求書発行事業者以外の者(免税事業者など)からの課税仕入れは仕入税額控除ができません。これを制度開始時からいきなり適用すると、免税事業者と取引する課税事業者の負担が急に増えてしまいます。
そこで、制度開始から一定期間は、免税事業者などからの課税仕入れであっても、仕入税額相当額の一定割合を控除できる激変緩和措置が設けられています。これが「免税事業者等からの仕入れに係る経過措置」で、根拠は平成28年改正法附則52条・53条とされています。
ここで注意したいのは、この経過措置は「免税事業者から仕入れる側(買い手)」の話だという点です。よく混同される「2割特例」「3割特例」は、「免税事業者からインボイス発行事業者になった側(売り手)」の納付税額を軽減する別の措置です。立場が逆なので、記事を読み進める際も区別してください。
令和8年10月からの控除割合は「70%」
経過措置の控除割合は、当初は次のスケジュールで設計されていました。令和5年10月から令和8年9月までが80%、令和8年10月から令和11年9月までが50%、その後は控除不可、という3段階です。つまり令和8年10月の時点で、80%から50%へ一気に30ポイント下がる予定でした。
これが令和8年度税制改正で見直され、引き下げ幅が緩和されたうえで、適用期限も2年延長されました。改正後のスケジュールは次のとおりです。
| 期間 | 控除割合 |
|---|---|
| 令和5年10月1日〜令和8年9月30日 | 80% |
| 令和8年10月1日〜令和10年9月30日 | 70%(新設) |
| 令和10年10月1日〜令和12年9月30日 | 50% |
| 令和12年10月1日〜令和13年9月30日 | 30% |
| 令和13年10月1日以後 | 控除不可 |
出典:国税庁「消費税の仕入税額控除制度における適格請求書等保存方式に関するQ&A」問113(令和8年4月改訂)。
令和8年10月から下がること自体は当初の予定どおりですが、その下げ幅が「50%まで」ではなく「70%まで」に緩和された、というのが今回のポイントです。実務上は、会計ソフトの税区分設定を「80%控除」から「70%控除」へ更新する対応が必要になります。とくに、過去の仕訳をコピーして新しい仕訳を作る場合に、税区分を「80%控除」のまま更新し忘れる誤りが起きやすいため、社内で注意喚起しておくと安心です。
なお、令和8年10月1日以後に開始する課税期間からは、一の免税事業者などからの課税仕入れの合計額がその課税期間で税込1億円を超える場合、超えた部分にはこの経過措置が使えないという金額基準も設けられています。免税事業者への外注比率が高い事業者は、この基準にも留意してください。
前提が変わったからこそ、簡易課税制度の検討を
ここからが、今回とくにお伝えしたい実務の視点です。
インボイス制度の導入時に想定されていた前提と、令和8年度改正後の前提は、経過措置の設計という点で大きく変わっています。当初は令和8年10月から50%に下がる想定だったものが、70%に緩和され、さらに終了時期も2年延長されました。「いつ、どの程度、負担が増えるのか」という時間軸が動いたわけです。ここは、免税事業者との取引がある事業者にとって、あらためて注意すべきポイントだと考えられます。
そのうえで、控除割合が今後50%、30%と下がっていくフェーズを見据えると、事業者によっては簡易課税制度への切り替えを検討する価値があります。ただし前提として、簡易課税制度は基準期間の課税売上高が5,000万円以下の事業者だけが選択できる、小規模な事業者向けの制度です(消費税法37条)。免税事業者との取引が非常に大きいような事業者は、事業規模そのものも大きく、売上高の面でこの制度の対象外となることが多いため、ここでのお話は主に小規模な事業者に向けたものとお考えください。
経過措置の縮小によって本則課税での仕入税額控除がだんだん薄くなっていくと、小規模な事業者のなかには、みなし仕入率(業種ごとに定められた一定割合で仕入税額を計算する仕組み)による簡易課税のほうが、事務負担を増やさずに税負担を抑えられるケースが出てきます。
ただし、簡易課税制度には注意点があります。この制度は、原則として適用を受けようとする課税期間の開始前までに「消費税簡易課税制度選択届出書」を提出しておく必要があり、届出のタイミングが遅れると、その課税期間には適用できません。つまり、「下がってきたから今期から簡易課税にしよう」と気づいた時点では、すでに手遅れになっていることがあり得ます。
課税仕入れが少ない事業者は、先に届出を出しておく手も
そこで一つの選択肢として、今後多額の設備投資の予定がなく、あるいはそもそも課税仕入れの額が極めて少ない事業者であれば、届出書の出し忘れを防ぐという意味で、あらかじめ簡易課税制度選択届出書を提出しておく、という考え方があります。
課税仕入れが少ない事業者は、本則課税で実際の仕入税額控除を積み上げても控除額がそもそも小さいため、簡易課税のみなし仕入率による控除のほうが有利、あるいは大きく変わらないことが多いといえます。そうした事業者であれば、経過措置の控除割合が下がるのを待ってから慌てて届出を出すよりも、先に届出を済ませておくことで、提出忘れによる不利益を避けやすくなります。
もっとも、簡易課税制度は原則として2年間の継続適用が必要で、その間に多額の設備投資などで多額の課税仕入れが発生すると、かえって不利になることもあります。ご自身がどちらに当てはまるかは、今後の仕入れ・投資の見通し次第です。届出は一度出すと影響が続くため、提出前に見通しを整理しておくことをおすすめします。
まとめ
令和8年10月からのインボイス経過措置は、当初の50%ではなく70%控除でスタートします。制度導入時と前提が変わっている点にまず注意してください。そして、控除割合が今後段階的に下がっていくことを見据え、簡易課税制度への切り替えが有利になる事業者は、届出のタイミングを逃さないことが重要です。
当事務所では、インボイス制度への対応や、簡易課税制度を選ぶべきかどうかのご相談を承っています。ご自身のケースでどちらが有利になるか気になる方は、お気軽にお問い合わせください。