食料品の消費税率が1%へ(令和9年4月から2年間・予定)― 業種別・課税方式別の影響を試算

結論:影響の出方は「課税方式」で全く異なります

令和8年8月5日、政府は飲食料品の消費税率を令和9年(2027年)4月1日から2年間に限り、現行の8%から1%へ引き下げる基本方針を閣議決定しました。事業者への影響は、採用している課税方式によって次のように分かれます。

  • 簡易課税の事業者:実質的な負担額そのものが大きく動きます。食品を「売る」業種(小売・製造・卸・農業)は不利に、食品を「使う」外食中心の飲食店は有利に働くと考えられ、課税方式の見直し検討が必要になるケースがあります。
  • 原則課税の事業者:実質的な負担は理論上変わりませんが、納付額・還付額が大きく変動するため、資金繰りへの影響は軽視できません。
  • 課税方式の変更届出は課税期間が始まる前が期限のため、判断に使える時間は短い可能性があります。
飲食料品の消費税率1%引下げの影響構造。食品を売る事業者は売上の税率が8%から1%に下がるため、簡易課税のままでは実質負担が増え、原則課税なら還付の可能性がある。外食中心の飲食店は売上の税率が10%のまま食材仕入だけが1%になるため、簡易課税では実質負担が減り、原則課税では納付額が増えるが実質負担は変わらない。 食品を「売る」事業者 小売・製造・卸・農業 売上の税率:8% → 1% 包材・光熱費など10%の経費は不変 簡易課税のまま → 負担増 10%経費の税を控除しきれない 原則課税 → 還付の可能性 ただし還付までの立替負担に注意 食品を「使う」事業者 外食中心の飲食店 売上の税率:10%のまま 食材仕入の税率だけ 8% → 1% 簡易課税 → 負担減 納付額は変わらず仕入の税だけ減る 原則課税 → 納付額は増加 実質負担は不変・期末の資金に注意

何が決まったのか(令和8年8月5日閣議決定)

政府は令和8年8月5日の臨時閣議で「給付付き税額控除の制度導入の基本方針」を決定しました。財務大臣の会見によれば、その概要は次のとおりです。

項目内容
対象軽減税率の対象となっている飲食料品
税率8% → 1%(引下げ)
期間令和9年4月1日から2年間(令和11年3月末まで)
あわせて1%相当分の範囲内で所得に連動した給付を令和9年度に導入し、飲食料品に係る消費税の「実質ゼロ化」を実現
その後給付付き税額控除を令和11年度から本格導入
立法予定令和8年9月に大綱を決定し、秋の臨時国会に法案を提出

現行の軽減税率の対象は、酒類・外食を除く飲食料品などです。今回の方針は「軽減税率の対象となっている飲食料品」の税率を1%とするものであるため、外食や酒類は10%のままとなる見込みですが、対象範囲の細部は法案の公表待ちです。本記事の内容は令和8年8月7日時点の閣議決定に基づくものであり、法案は未成立です。 今後の国会審議で内容が変わる可能性があります。

飲食料品の消費税率1%引下げのスケジュール。令和8年8月5日に閣議決定、9月に大綱、秋に法案提出予定。個人事業者などの課税方式の届出期限は令和8年12月末。令和9年4月1日から税率1%が始まり、令和11年3月末に終了して8%へ戻る予定。 令和8年8月5日 閣議決定 9月〜秋 大綱・法案提出 令和8年12月末 届出期限(個人・ 12月決算法人) 令和9年4月1日 税率1%開始 令和11年3月末 終了(8%へ)

業種別・課税方式別の影響試算

税率以外の条件を一切動かさず、影響だけを取り出して試算します。全業種とも売上4,000万円(税抜・年間)に統一し、原価率・経費率は業種平均を参考にした想定値で固定しました。

業種食品仕入(1%へ)その他の10%経費
食品小売75%(3,000万円)10%(400万円)
食品製造55%(2,200万円)20%(800万円)
食品卸85%(3,400万円)5%(200万円)
農業(食用)なし40%(1,600万円)
飲食店(外食中心)30%(1,200万円)20%(800万円)

この前提で、納付額と実質負担がどう動くかをまとめたのが次の表です。「実質負担」とは、原則課税(預かった税と支払った税の精算)を基準にした損得を指します。原則課税では税率が変わっても理論上の損得は生じないため、実質負担の増減が発生するのは簡易課税の場合のみです。

業種課税方式納付額:現行→改正後納付額の増減実質負担の増減
食品小売原則課税40万円 → 還付30万円−70万円増減なし
食品小売簡易(第2種)64万円 → 8万円−56万円14万円の負担増
食品製造原則課税64万円 → 還付62万円−126万円増減なし
食品製造簡易(第3種)96万円 → 12万円−84万円42万円の負担増
食品卸原則課税28万円 → 還付14万円−42万円増減なし
食品卸簡易(第1種)32万円 → 4万円−28万円14万円の負担増
農業(食用)原則課税160万円 → 還付120万円−280万円増減なし
農業(食用)簡易(第2種)64万円 → 8万円−56万円224万円の負担増
飲食店(外食)原則課税224万円 → 308万円+84万円増減なし
飲食店(外食)簡易(第4種)160万円 → 160万円増減なし84万円の負担減

この表から読み取れるポイントは3つです。

第一に、簡易課税の食品販売業は「納付額が減るのに損をする」構造になります。 簡易課税は売上の消費税額に業種ごとのみなし仕入率を掛けて仕入分の控除額を計算するため、売上の税率が1%になると控除額も8分の1に縮みます。一方、包材・光熱費・家賃といった10%の経費で支払う消費税は変わらないため、控除しきれない税が事業者の自己負担として残ります。原則課税であれば還付(支払った税が預かった税を上回る場合に精算で戻ってくること)を受けられる可能性がある分、簡易課税のままでいることが不利に働きます。

第二に、影響が最も大きいのは農業です。 食用の農産物を生産する事業者は、売上は全額1%になる一方、肥料・農薬・燃料・機械といった経費はすべて10%のままです。上記の試算では、現行制度で簡易課税が有利だった状態から一転して、実質負担の悪化幅が224万円と他業種の5倍以上になります。この点は政府も認識しており、財務大臣は「仕入れ税額控除の還付が受けられない農業従事者等については、現場の納得感のある対応を検討」すると会見で述べています。

第三に、外食中心の飲食店では簡易課税の有利性が拡大します。 売上の税率は10%のまま、食材仕入の税負担だけが減るため、簡易課税なら納付額が変わらないまま手元資金が改善します。ただし原則課税の場合は、仕入で支払う税が減る分だけ期末の納付額が増える点に注意が必要です(上記試算では+84万円)。これは損ではなく期中に浮いた資金の裏返しですが、その資金を運転資金に使ってしまうと納税時に不足します。

注意点:届出期限と「2年縛り」

簡易課税をやめて原則課税に変更する場合(またはその逆)の届出は、適用を受けようとする課税期間の初日の前日までに提出することとされています。個人事業者と12月決算法人であれば、令和9年分(令和9年1月開始事業年度)から変更するには令和8年12月末が期限となります。9月の大綱・秋の法案審議から判断までの時間は、想像以上に短い可能性があります。

また、簡易課税は一度選択すると、事業を廃止した場合を除き2年間継続した後でなければやめられないこととされています。今回の税率1%は令和11年3月末で終了し8%へ戻る予定のため、切り替える場合は2年間の減税期間と、その後の税率復帰までを通した設計が必要です。

なお、個人事業者については、インボイス制度のいわゆる2割特例の終了後、納税額を売上税額の3割とできる措置が令和9年分・令和10年分の2年間講じられるとされています(令和8年度税制改正大綱)。対象となる個人事業者は、原則課税・簡易課税・この3割の措置という三択での比較になる場合があります。

実務上の考え方

原則課税を採用している場合、実質的な負担そのものは増えません。しかし納付税額の水準と計算の前提が大きく変わるため、資金繰りへの影響は軽視できないと考えられます。食品を販売する事業者は還付が入金されるまで10%経費の税を立て替え続けることになり、外食中心の飲食店は期末の納付額が膨らみます。改正後に自社の納税額がどう変わるのか、納税資金や運転資金をどれだけ準備すべきかを、施行前に顧問税理士等へ確認しておくことが望ましいでしょう。

簡易課税を選択している場合は、実質的な負担額そのものに大きな影響が出ます。影響額によっては原則課税への変更を検討することになりますが、前述のとおり届出には期限があり、極めて短い時間での判断を迫られる可能性があります。還付を受けられない事業者への対応は政府も検討を表明しており、何らかの救済措置が講じられる可能性もゼロではありませんが、それを待って判断を先送りすることは得策とはいえません。

また、簡易課税をやめるという判断には、今回の税率だけでなく、設備投資の予定、インボイスの保存を含む事務負担、税率復帰後の再選択など、様々な要因が絡みます。実務上は個々の事業内容に即した試算が不可欠であり、早めに専門家へ相談し、対応の検討を始めることをお勧めします。

まとめ

飲食料品の消費税率1%への引下げ(令和9年4月から2年間・予定)は、消費者にとっての減税である以上に、事業者の納税額・資金繰り・課税方式の選択を大きく動かす改正です。簡易課税の事業者は実質負担の変動を、原則課税の事業者は納付額と資金繰りの変動を、それぞれ試算しておくことが第一歩となります。法案の成立前ではありますが、届出期限から逆算すると、検討は早いに越したことはありません。

当事務所では、消費税の課税方式の有利判定を含む税務のご相談を承っています。気になる点がございましたら、お気軽にお問い合わせください。

(主な根拠)財務省「片山財務大臣兼内閣府特命担当大臣臨時閣議後記者会見の概要(令和8年8月5日)」 https://www.mof.go.jp/public_relations/conference/my20260805.html /財務省「令和8年度税制改正の大綱の概要」 https://www.mof.go.jp/tax_policy/tax_reform/outline/fy2026/08taikou_gaiyou.pdf /国税庁タックスアンサーNo.6505「簡易課税制度」 https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/shohi/6505.htm

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