クレジットカード売上の早期立替入金サービスを手がけていた株式会社全東信は、大阪地方裁判所に破産手続開始の申立てを行い、令和8年(2026年)7月6日午後0時に破産手続開始決定を受けました(事件番号:大阪地方裁判所 令和8年(フ)第3500号)。立替支払を受けていない売上金の回収が困難となり、飲食業を中心に影響が及んでいると報じられています。
結論を3点で申し上げます。
第一に、破産手続開始決定があっても、未入金の売上金の全額をただちに貸倒損失として計上することはできません。資本金1億円以下の法人などと個人事業主は、まず債権額の50%を個別評価金銭債権に係る貸倒引当金として損金(必要経費)に算入し、手続の進行を待って貸倒損失に振り替える二段階の処理が基本形になります。
第二に、消費税の貸倒れに係る税額の控除は、対象外となる可能性があります。加盟店が全東信に対して有する債権が、消費税法の求める「課税資産の譲渡等の相手方に対する債権」ではないと考えられるためです。
第三に、税務処理で埋められる穴は限られます。資金繰りの手当てを先に済ませ、税務の組み立てはその後に回すという順序が現実的です。
なぜ「破産したのだから全額を損失に」とはならないのか
取引先が破産したという事実だけで、その取引先に対する金銭債権の全額を貸倒損失として計上できるわけではありません。法人税では法人税法第22条を根拠に、法人税基本通達9-6-1から9-6-3までの3類型のいずれかに当てはまる場合に計上します(個人事業主は所得税基本通達51-11から51-13まで)。3類型とは、①更生計画認可の決定などによる債権の切捨て、②債務者の資産状況・支払能力等からその全額が回収できないことが明らかになった場合、③継続的な取引を行っていた取引先との取引停止から1年以上経過した場合などです。
破産手続には、更生計画や再生計画のような「認可の決定による切捨て」の段階が存在しないため、①には当たりません。
②についても、現時点では要件を満たすとは言いにくい状況です。全東信の破産管財人は、同社ホームページのよくあるご質問において、財産状況の確認中であり破産債権の債権調査も実施されていないため、配当があるかどうかや配当率については回答できないとしています。管財人自身が配当の有無を明らかにしていない段階で、加盟店側が「全額が回収できないことが明らか」と判断するのは無理があります。
③は対象が売掛債権に限られ、貸付金その他これに準ずる債権は含まれません。後述のとおり、加盟店が全東信に対して有する債権は会員に対する売掛金とは性質が異なるため、この類型も使いにくいと考えられます。
第一段階:中小法人等と個人事業主は債権額の50%を繰り入れられる
一方、貸倒引当金には破産手続開始決定を待たずに使える規定があります。法人税法第52条第1項および法人税法施行令第96条第1項第3号ハは、金銭債権に係る債務者につき「破産手続開始の申立て」という事由が生じている場合、その金銭債権の額の100分の50に相当する金額を個別評価金銭債権に係る貸倒引当金の繰入限度額とする旨を定めています。個人事業主については所得税法第52条第1項および所得税法施行令第144条第1項第3号ハに同じ規定があります。
全東信は破産手続開始の申立てを行い、令和8年7月6日に破産手続開始決定を受けているため、この事由が生じていることになります。適用にあたっては次の点を押さえる必要があります。
- 対象となる法人が限られます。資本金の額が1億円以下の普通法人(資本金5億円以上の大法人の100%子法人等および大通算法人を除く)、公益法人等、協同組合等、人格のない社団等、銀行・保険会社等に限定されており、資本金1億円超の法人は使えません(法人税法第52条第1項各号)。
- 個人事業主は青色申告でなくても使えます。所得税法第52条第1項の個別評価に青色申告の要件はありません。青色申告を要件とするのは同条第2項の一括評価のみです。
- 判定時期が異なります。法人は事業年度終了の時、個人事業主はその年の12月31日の時点で判定します。
- 申告書への記載が要件です。確定申告書に繰入額の損金算入(必要経費算入)に関する明細の記載がある場合に限り適用されます(法人税法第52条第3項、所得税法第52条第4項)。
- 控除すべき金額があります。債務者から受け入れた金額があるため実質的に債権とみられない部分の金額、および担保権の実行、金融機関または保証機関による保証債務の履行その他により取立て等の見込みがあると認められる部分の金額は、繰入限度額の計算から除きます。
なお、この貸倒引当金は洗替方式です。損金算入された貸倒引当金勘定の金額は翌事業年度の益金の額に算入され(法人税法第52条第10項)、個人事業主も繰入額が翌年分の総収入金額に算入されます(所得税法第52条第3項)。効果は課税の繰延べであり、税負担が消えるわけではありません。
第二段階:貸倒損失への振り替えは手続の進行を待つ
破産手続が進んで配当がないことや配当率が確定した段階、あるいは破産手続の終結・廃止により法人格が消滅した段階で、貸倒損失として計上する余地が生じます。全額回収不能として処理する場合、担保物があるときはその担保物を処分した後でなければ損金経理はできず、保証債務は現実に履行した後でなければ貸倒れの対象にできないとされています。
全東信の破産管財人は、加盟店に対する破産手続開始等の通知について、発送数が膨大であることと破産債権の存否の調査が必要であることから発送までに一定の期間を要するとしており、債権届出も配当が見込める可能性が生じた段階で改めて案内する予定としています。債権者集会や債権者説明会の開催予定は現在のところないとされています。第二段階に進む材料が揃うまでには相応の時間がかかる見込みです。
ここで注意したいのは、債権届出は税務上の要件ではないという点です。個別評価金銭債権に係る貸倒引当金の繰入事由は「破産手続開始の申立て」があることであり、債権を届け出たかどうかは要件になっていません。届出は回収可能性を裏付ける資料として意味を持ちますが、届出をしていないから貸倒処理ができないというものではありません。そもそも現時点では届出書自体が配布されていない状況です。
消費税は、そもそも対象の債権が違う
消費税法第39条第1項は、事業者が国内において課税資産の譲渡等を行った場合に、「当該課税資産の譲渡等の相手方に対する売掛金その他の債権」につき貸倒れの事実が生じて税込価額の全部または一部の領収ができなくなったとき、課税標準額に対する消費税額から一定額を控除する旨を定めています。
ここが本件の分かれ目です。飲食店にとっての課税資産の譲渡等の相手方は、飲食代金を支払ったカード利用客であり、全東信ではありません。
全東信の加盟店規約(2026年4月30日改定)第8条第1項は、加盟店が計上した販売代金をカード会社に代わって全東信が立替払いし、それによって全東信が加盟店のカード会社に対する債権者の地位に代位すること、または加盟店のカード会社に対する立替金債権を全東信が譲受けてその譲渡代金を加盟店に支払うことを、加盟店が承諾する旨を定めています。つまり加盟店が全東信に対して有していた債権は、会員に対する売掛金そのものではなく、そこから二段離れた立替金債権に関する債権です。同じ趣旨は行政側の文書にも表れており、横浜市はセーフティネット保証1号の認定要件において、対象となる債権を「未収入金(全東信に譲渡したクレジットカード売上債権をいう。)」と説明しています。
加えて、消費税法施行令第59条が定める貸倒れの事実は、再生計画認可の決定による債権の切捨て、特別清算に係る協定の認可の決定による債権の切捨て、債務者が債務の全額を弁済できないことが明らかであること、これらに準ずるものとして財務省令で定める事実です。仮に対象債権の問題を越えたとしても、破産手続開始決定の時点ではこれらの事実がまだ生じていないと考えられます。なお控除を受けるには貸倒れの事実を明らかにする書類の保存が必要とされ、控除額は貸倒れの金額に110分の7.8(軽減税率の対象は108分の6.24)を乗じて計算します。
見落としやすい点
決算期によって、最初に処理できる時期が変わります。 個人事業主は12月31日で判定するため令和8年分の確定申告で50%の繰入の対象となりますが、法人は令和8年7月6日以後に到来する事業年度末が最初の機会となるため、事業年度によって半年以上の差が生じます。
セーフティネット保証は繰入限度額を減らしません。 セーフティネット保証1号は、全東信に対して50万円以上の未収入金等を有すること、または50万円未満でも取引額が売上高の20%以上であることが認定要件とされています。これは自社の借入に対する保証であり未収入金そのものの保証ではないため、繰入限度額から控除する「保証機関による保証債務の履行その他により取立て等の見込みがあると認められる部分」には当たらないと考えられます。
経営セーフティ共済には期限があります。 中小機構の経営セーフティ共済は、取引先事業者の倒産により売掛金債権等の回収が困難となった場合に共済金の貸付けを受けられる制度で、貸付額は納付された掛金総額の10倍(最高8,000万円)と回収困難となった売掛金債権等の額のいずれか少ない額です。請求は倒産日から6か月以内とされているため、令和8年7月6日を起点とすると期限が迫っています。貸付対象は「売掛金債権等」とされており決済代行会社に対する未収入金が該当するかは個別の判断になりますので、加入されている場合は自己判断で諦めず中小機構にご確認ください。なお貸付けを受けると貸付額の10分の1に相当する額が掛金総額から控除されます。
債権を売って現金化することはできません。 全東信の加盟店規約第19条第2項は、加盟店の全東信に対する債権を第三者に譲渡できないと定めています。
実務上の考え方:順序は税務よりも資金繰りが先
3つの論点は、いずれも「加盟店が持っている債権は何なのか」という同じ一点から結論が出ます。ただし効いてくるタイミングは同じではありません。消費税と貸倒処理は決算・申告のときに納税額を通じて効いてきます。倒産防止共済は、いまの資金繰りに直結します。この2つは分けて考える必要があります。
そのうえで本件の厳しさは、どの段階でも穴が埋まらないところにあります。立替入金が止まって資金繰りがきつくなり、倒産防止共済の貸付も対象外となる可能性があって資金繰りは苦しいまま、決算でも損金算入は限られるため税負担もあまり減りません。損金にならない分、かえってきつくなります。
そもそも早期入金サービスを利用していたのは、入金サイクルを早めなければ資金が回らない事業者が多いと考えられます。だとすれば、税務上の処理をどう組むかを詰める前に、まず金融機関等から融資を受けて資金繰りに余裕を持たせることが先だといえます。倒産防止共済の貸付対象になるかどうかで足踏みするより、並行して融資の相談を進めるほうが安全です。
一点付け加えると、借入金は資金であって費用ではありません。借入によって資金繰りは繋がりますが税負担が軽くなるわけではなく、返済原資は税引後の利益から出ることになります。「税務で救われない分を借入で埋める」という性質のものだと理解しておく必要があります。
まとめ
- 破産手続開始決定だけでは、未入金の売上金の全額を貸倒損失にはできません
- 資本金1億円以下の法人等と個人事業主は、まず債権額の50%を個別評価金銭債権に係る貸倒引当金として繰り入れる二段階の処理が基本形です(法人税法第52条第1項、法人税法施行令第96条第1項第3号ハ、所得税法第52条第1項、所得税法施行令第144条第1項第3号ハ)
- 申告書への明細の記載が適用要件で、洗替方式のため効果は課税の繰延べです
- 消費税の貸倒れに係る税額の控除は、対象となる債権の相手方が異なるため対象外となる可能性があります
- 債権届出は税務上の要件ではなく、現時点では届出書自体が配布されていません
- 経営セーフティ共済の共済金貸付の請求は倒産日から6か月以内とされています
- 税務処理より先に、資金繰りの手当てを進めることが現実的です
本記事は令和8年8月18日時点で確認できる法令・通達および公表情報に基づいています。破産手続の進行状況は今後変わり得るため、実際の処理にあたっては最新の情報をご確認ください。破産管財人からの案内は全東信ホームページに掲載されています。