国公立大22法人が消費税3億円を追加納付――「授業料減免に充てる交付金」が特定収入になる理屈

結論:「減免に充てる」交付金は、使途が特定されていない

2026年8月26日、共同通信の集計により、少なくとも22の国公立大学法人が、授業料等減免費交付金の消費税処理を巡って修正申告していたことが報じられました。追加納付した消費税は2024年度分までで計約3億円、延滞税・加算税は計約1千万円とされています。

理屈を一言でいえば、こうなります。交付金の使途が「授業料の減免」に限定されていても、減免は法人の「支出」ではないため、消費税法上の「使途の特定」にはなりません。使途が特定されない交付金は「使途不特定の特定収入」に区分され、仕入税額控除が削られます。22法人はこの交付金を控除が削られない「特定収入以外の収入」として処理していましたが、国税当局は「特定収入」に当たると指摘しました。

同じ構造の収入――収入減の穴埋め型交付金、利用者負担軽減のための補助金――は、大学以外の公共・公益法人でも珍しくありません。消費税法別表第三に掲げる法人で、数億円単位の補助金を受け取っている法人は、いわゆる「国等の特例」の判定を一度は専門家と確認しておくことが望ましいと考えられます。

補助金・交付金の特定収入判定フロー。交付要綱等で使途が明らかでなければ使途不特定の特定収入。使途が明らかでも、それが課税仕入れ以外の「支出」でなければ特定収入になる。授業料減免は支出ではないため特定収入に該当する。 補助金・交付金(対価性のない収入) Q1 法令・交付要綱等で使途が明らかか? いいえ はい Q2 その使途は課税仕入れ以外の「支出」か? (人件費・利子・土地購入費など) いいえ はい 使途不特定の 特定収入 調整割合で控除減 特定収入 課税仕入れに充てる → 直接控除 減免など「支出でない」 → 使途不特定 特定収入以外 の収入 調整なし 22法人は右端に置いたが、国税当局は中央(特定収入)と判断した

何が起きたのか:2020年度に始まった制度の処理が5年分まとめて修正された

授業料等減免費交付金は、大学等における修学の支援に関する法律(令和元年法律第8号)に基づく「高等教育の修学支援新制度」の一部です。制度は令和2年4月に始まり、確認を受けた大学等が低所得世帯や多子世帯の学生の授業料・入学金を減免し、その「減免に要する費用」を国立大学なら国が、公立大学なら設置する都道府県・市町村が全額支弁します。令和7年度からは多子世帯の学生について所得制限なしの授業料等無償化に拡充されており、交付金の規模は今後さらに大きくなる見通しです。

報道によれば、修正申告した22法人の内訳は、行政指導を受けた東京大学・京都大学・大阪大学・九州大学など19法人、税務調査で指摘を受けた横浜国立大学など2法人、行政指導前に自ら修正申告した山口大学です。金額を単純に割れば、1法人・1年度あたり300万円弱という規模で、個々の大学にとって致命的な額ではありません。ただし、国内最大級の経理部門を持つ大学が揃って同じ判定を誤っていたという点に、この論点の難しさが表れています。

制度の中身:国等の特例と「特定収入」の3区分

誰に適用されるか――消費税法別表第三に掲げる法人

消費税法60条4項は、国・地方公共団体(特別会計に限る)、消費税法別表第三に掲げる法人、人格のない社団等について、仕入税額控除に特別な調整を求めています。一般に「国等の特例」と呼ばれる仕組みです。免税事業者と簡易課税制度の適用者は対象外とされています。

別表第三には、およそ次のような法人が並んでいます。

  • 一般社団法人・一般財団法人、公益社団法人・公益財団法人
  • 学校法人、社会福祉法人、宗教法人、更生保護法人、職業訓練法人
  • 医療法人(社会医療法人に限る)
  • 国立大学法人、大学共同利用機関法人、独立行政法人、地方独立行政法人(公立大学法人を含む)
  • 商工会、商工会議所、中小企業団体中央会、出資をさせない商工組合
  • 税理士会、弁護士会、司法書士会、行政書士会、社会保険労務士会などの士業団体
  • 健康保険組合、国民健康保険組合、企業年金基金、国民年金基金
  • 土地改良区、土地区画整理組合、市街地再開発組合、信用保証協会
  • 法人である労働組合、日本赤十字社、日本放送協会

つまり、営利企業以外の法人格の大半がここに入ります。「うちは株式会社ではないから消費税は普通に計算している」という法人の多くが、実は特例の対象です。

特定収入とは何か

特定収入とは、資産の譲渡等の対価以外の収入(いわゆる不課税収入)のうち、政令で除外されたもの以外をいいます。租税、補助金、交付金、寄附金、保険金、損害賠償金、会費、他会計からの繰入金などが典型例として通達に例示されています。

除外されるもの、すなわち「特定収入以外の収入」は消費税法施行令75条1項に列挙されています。借入金、出資金、預り金、貸付回収金、返還金・還付金のほか、同項6号として「法令又は交付要綱等において、特定支出のためにのみ使用することとされている収入」が挙げられています。ここでいう特定支出とは、課税仕入れに係る支出、課税貨物の引取りに係る支出、借入金等の返済に係る支出「以外の支出」と定義されています。人件費に使途が限定された補助金、利子補給、土地購入費への補助などが、これに当たります。

課税期間の特定収入の合計額が、資産の譲渡等の対価の額と特定収入の合計額に対して5%を超える場合、通常の計算で求めた仕入控除税額から「特定収入に係る課税仕入れ等の税額」を差し引く調整が必要になります。

3つの区分と計算への影響

補助金や交付金は、使途の文言によって次の3つに区分されます。

区分使途の状態仕入税額控除への影響
課税仕入れ等に係る特定収入課税仕入れ(備品購入、委託費等)に充てると特定その金額×7.8/110を直接控除から差し引く
使途不特定の特定収入使途が特定できない、または特定支出でないものに使途が限定調整割合(使途不特定特定収入÷(対価の額+使途不特定特定収入))を残りの控除税額に乗じて差し引く
特定収入以外の収入特定支出(人件費等)にのみ使うと特定調整なし

使途の判定資料は、交付要綱・交付決定書だけでなく、附属書類である積算内訳書や実績報告書も含まれるとされています(消費税法基本通達16-2-2)。法令や交付要綱等で特定できず、地方公共団体が使途を明らかにした文書もない場合、その補助金は使途不特定の特定収入に該当すると国税庁の質疑応答事例は整理しています。

3億円の分岐点:「減免」は支出ではない

今回の交付金の使途は「授業料等減免に要する費用」に限定されています。22法人側の処理は、この文言を「減免は課税仕入れではない→課税仕入れ以外の支出(特定支出)に使途が限定された収入→特定収入以外」と読んだものと推定されます。字面だけを追えば、決して無理筋の読み方ではありません。

しかし、国税当局の整理はこう考えられます。授業料の減免は、学生に対する授業料債権を発生させない、あるいは免除する行為であって、法人がお金を支払う「支出」ではありません。支出でないものに使途が限定されていても、施行令75条1項6号の「特定支出のためにのみ使用することとされている収入」には該当しない、という帰結です。使途が特定されないのであれば、この交付金は使途不特定の特定収入となり、調整割合を押し上げて仕入控除税額を減らすことになります。

経済的な実態に照らしても、この整理には理由があります。授業料は消費税の非課税売上です。交付金は、学生から受け取れなかった非課税売上の穴埋めを国が行ったものにすぎず、大学の課税仕入れとの対応関係は何も変わっていません。非課税売上の代替が国から来たからといって仕入税額控除が増えるのは制度趣旨に合わない、というのが特定収入で調整する側の論理と考えられます。

なお、文部科学省が公表している授業料等減免事務処理要領(第7版)には、消費税の取扱いに関する記載が見当たりません。他の文部科学省補助金の交付要綱には仕入控除税額に相当する額を減額して申請する規定が置かれているものもあり、この交付金に消費税上の注意喚起がなかったことも、判定の見落としにつながった一因と考えられます。

例外・注意点

  • 特定収入割合が5%以下であれば調整計算は不要とされています。ただし、公共・公益法人は運営費交付金や会費などで通常この割合を大きく超えています。
  • 簡易課税制度の適用者と免税事業者には特例の適用がありません。小規模な一般社団法人などでは、まず簡易課税かどうかで分岐します。
  • 地方公共団体が使途を明らかにした文書によって使途を特定する場合、その文書を確定申告書とともに提出する必要があるとされています。添付漏れは使途不特定扱いにつながるリスクがあります。
  • 公立大学法人は自治体から交付を受けるため、自治体側の交付要綱の文言次第で判定が変わる余地があります。同じ制度でも設置団体ごとに使途の書き方が異なる可能性があります。
  • 私立大学(学校法人)も日本私立学校振興・共済事業団を経由して同じ交付金を受けています。報道は国公立大学に限られていますが、構造上は同じ論点が潜在していると考えられます。
  • 令和5年10月のインボイス制度開始に伴い、課税仕入れ等に係る特定収入を免税事業者等からの課税仕入れに充てた場合の取戻し調整(施行令75条8項・9項)が設けられていますが、今回の使途不特定の論点には直接影響しません。

実務ではこう見ています

国等の特例は、税理士のような専門家であっても、実務で実際に使用した経験のある人が非常に少ない分野です。試験や研修で名前は聞いていても、特定収入の判定を交付要綱の文言まで遡って行った経験がある実務家は限られます。ましてや、法人内部の経理担当者レベルでこの論点に気づくことは、不可能に近いというのが実務の感覚です。東京大学や京都大学の経理部門が揃って外したという事実は、担当者の能力の問題ではなく、論点そのものの認知度の低さを示しています。

一方で、今回と同じ構造の補助金――収入減の穴埋め型の交付金や、利用者負担を軽減するための補助金――は、公共・公益法人の実務では「たまにある」類のものです。介護や保育の利用者負担軽減、料金減免の補填、被災時の収入補償など、形を変えて登場します。いずれも「支出ではないものに使途が限定されている」という点で、今回の授業料減免交付金と同じ判定の問題を抱えています。

したがって、消費税法別表第三に掲げる法人のうち、数億円単位の補助金や交付金を受け取っている法人は、通常の消費税申告に加えて、国等の特例に対応できる専門家に一度相談しておくことが望ましいと考えられます。今回は共同通信の取材で表に出ましたが、明らかになっていないだけで、同種の判定ミスは相当数存在しているはずです。行政指導を受けてから修正申告に至れば、本税に加えて延滞税・加算税の負担も生じます。

まとめ

  • 国公立大学22法人が、授業料等減免費交付金を「特定収入以外の収入」として処理し、消費税約3億円(2024年度分まで)を修正申告しました。
  • 減免は法人の支出ではないため、「減免に充てる」という使途限定は消費税法上の使途特定にはならず、交付金は使途不特定の特定収入として仕入税額控除を減らします。
  • 別表第三法人には一般社団・財団法人、学校法人、社会福祉法人、宗教法人、地方独立行政法人など営利企業以外の大半が含まれ、収入減の補填型・負担軽減型の補助金は同じ判定問題を抱えています。

当事務所では、公共・公益法人の消費税(特定収入の判定を含む)に関するご相談を承っています。多額の補助金・交付金を受け取っている法人で気になる点がございましたら、お気軽にお問い合わせください。

根拠:消費税法60条4項、消費税法施行令75条、消費税法基本通達16-2-1〜16-2-9、国税庁タックスアンサーNo.6495、国税庁質疑応答事例「公益法人等における補助金等の使途の特定方法」、大学等における修学の支援に関する法律(令和元年法律第8号)8条・9条、文部科学省「授業料等減免事務処理要領(第7版)」、共同通信2026年8月26日配信記事

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