山形県の最低賃金1,092円で月給はいくら必要か――「時給じゃないから関係ない」が通じなくなる計算

結論:月給を「1か月の所定労働時間」で割って1,092円を超えているか、今すぐ確認してください

山形地方最低賃金審議会は令和8年8月27日、山形県最低賃金を現行の1,032円から60円引き上げて時間額1,092円に改正するよう答申しました。効力発生は令和8年10月30日の予定です(異議申出の手続きを経て山形労働局長が決定します)。

最低賃金はパート・アルバイトだけの話ではありません。月給制の正社員も、月給を1か月の所定労働時間で割った時間換算額が最低賃金以上でなければ違反になります。完全週休2日で祝日も休みの会社なら月給約17.9万円、年間休日105日の会社なら約18.9万円が、通勤手当などを除いた月給のラインです。

そして、この水準は3年で約2割上がっています。今年ぎりぎりでクリアしても、来年同じ幅で上がれば割れる会社が出てきます。

年間休日の日数別に、最低賃金1,092円を満たすために必要な月給の下限。年間休日125日なら約17.5万円、120日なら約17.8万円、105日なら約18.9万円。休日が少ない会社ほど必要な月給は高くなる。 時給1,092円を満たす月給の下限(1日8時間・通勤手当等を除く) 年間休日125日 完全週休2日+祝日+夏季・年末年始 月160.0時間 → 174,720円 年間休日120日 完全週休2日+祝日 月163.3時間 → 178,360円 年間休日105日 完全週休2日のみ・祝日は出勤 月173.3時間 → 189,280円 月の所定労働時間=(365日-年間休日)×8時間÷12か月。必要月給=所定労働時間×1,092円

山形県最低賃金は3年で約2割、13年で約6割上がった

山形県最低賃金の推移を山形労働局の資料で確認すると、平成25年度の665円から令和8年度(答申)の1,092円まで、13年間で427円、およそ64%上がっています。特に直近3年の動きが急で、令和5年度900円(+46円)、令和6年度955円(+55円)、令和7年度1,032円(+77円、8.06%)、令和8年度1,092円(+60円、5.81%)と続きます。令和7年度の77円は、時給方式になって以降で最大の引上げでした。

全国の動きも同じ方向です。中央最低賃金審議会が令和8年7月28日に示した目安は、Aランク54円・B・Cランク56円で、目安どおりなら全国加重平均は1,176円(+55円、4.9%)となります。山形県はCランクに属し、目安56円に対して答申は60円と、目安を上回りました。

政府方針としては、経済財政運営と改革の基本方針2026において「遅くとも2030年代前半できる限り早期に全国平均1,500円を達成する」とされています。骨太方針2025の「2020年代」からは後ろ倒しになりましたが、年数十円規模の引上げが当面続く前提で経営を考える必要があると見られます。

月給制でも「時間換算」で判定される

最低賃金は時間額で定められており、月給制の労働者については月給を1か月の平均所定労働時間で割った金額が最低賃金額以上であることが求められます。ここで月給から除かれるのは、精皆勤手当・通勤手当・家族手当、結婚手当のような臨時の賃金、賞与など1か月を超える期間ごとに支払われる賃金、時間外・休日・深夜の割増賃金です。つまり、判定の分子は「基本給+それ以外の毎月の手当」、分母は「就業規則上の所定労働時間」になります。

分母の所定労働時間は、年間休日の日数で決まります。1日8時間勤務の場合、(365日-年間休日)×8時間÷12か月が1か月平均の所定労働時間です。年間休日125日なら160.0時間、120日なら163.3時間、105日なら173.3時間になります。

これに1,092円を掛けると、必要な月給の下限は次のとおりです。

年間休日勤務パターンの例月平均所定労働時間1,092円で必要な月給(参考)現行1,032円
125日完全週休2日+祝日+夏季・年末年始160.0時間174,720円165,120円
120日完全週休2日+祝日163.3時間178,360円168,560円
105日完全週休2日のみ(祝日は出勤)173.3時間189,280円178,880円

同じ「月給18万円」でも、年間休日120日の会社は適法で、105日の会社は違反になります。休日が少ない会社ほど必要な月給が高くなる、という構造です。

初任給の統計と比べると、余裕はほとんどない

山形労働局がまとめた「令和7年度版 山形県の賃金統計」(令和6年賃金構造基本統計調査に基づく)によると、山形県の新規学卒者の所定内給与額は、高卒で男性184.3千円・女性173.3千円、高専・短大卒で男性212.9千円・女性180.4千円、大卒で男性253.0千円・女性227.3千円です。

高卒の初任給を上の表に当てると、年間休日120日の会社では必要月給178,360円に対して女性173.3千円は下回り、男性184.3千円もわずか6千円の差です。年間休日105日なら男女とも下回ります。統計上の所定内給与額には通勤手当などが含まれていますので、最低賃金の判定に使う金額はこれよりさらに小さくなります。なお、この統計は令和6年6月時点のもので、その後2年分の賃上げは反映されていません。ただし、その2年で最低賃金は900円から1,092円へ192円上がっており、同じペースで初任給が上がっていなければ差は縮まっているはずです。

短時間労働者についても同じことが言えます。同じ統計で、山形県の女性短時間労働者の1時間当たり所定内給与額は産業計で1,148円、製造業1,046円、卸売・小売業1,073円、宿泊・飲食サービス業1,032円でした。調査時点の最低賃金は900円でしたから当時は余裕がありましたが、これらの業種の時給を2年前の水準のまま据え置いていれば、10月30日以降は1,092円を下回ります。

特定(産業別)最低賃金は3業種とも追い越される

山形県には地域別最低賃金とは別に、一般産業用機械・装置等製造業(1,070円)、電気機械器具等製造業(1,055円)、自動車・同附属品製造業(1,070円)の特定最低賃金があります。最低賃金法第6条第1項により、複数の最低賃金の適用を受ける労働者には最も高い額が適用されるため、令和8年10月30日以降はこの3業種でも山形県最低賃金1,092円が適用されることになります。

特定最低賃金を基準に賃金表を組んでいる製造業では、基準そのものが効かなくなる点に注意が必要です。

例外・注意点

  • 答申はまだ決定ではありません。異議申出の手続きを経て労働局長が決定し、公示されます。金額と発効日は決定後に改めて確認してください。
  • 上の表の所定労働時間は1日8時間・年間休日ベースの試算です。実際の判定は自社の就業規則上の所定労働時間で行ってください。1日7.5時間の会社なら分母が小さくなり、必要月給も下がります。
  • 月給に含まれる手当の性質を確認してください。名称が「業務手当」でも実態が時間外労働の対価なら、最低賃金の計算からは除かれます。
  • 令和7年度は12月23日発効でしたが、令和8年度は10月30日発効の予定です。前年より約2か月早く、年末調整の時期ではなく秋の給与計算から対応が必要です。
  • 週20時間以上働く短時間労働者の社会保険加入について、いわゆる「月8.8万円」の賃金要件は令和8年10月に撤廃される予定です。時給1,092円で週20時間働くと月額は約9.5万円になり、賃金要件は事実上意味を持ちません。従業員51人以上の企業規模要件は令和9年10月から36人以上に縮小され、以降も段階的に縮小されます。

賃上げの原資をどこで確保するか:税制と県支援金

賃上げの負担を和らげる制度としては、中小企業向けの賃上げ促進税制があります。租税特別措置法第42条の12の5第2項では、青色申告の中小企業者等が令和9年3月31日までの間に開始する事業年度において、雇用者給与等支給額を前年度比1.5%以上増加させた場合、増加額の15%を法人税額から控除できるとされています。増加率が2.5%以上なら15%が上乗せされ、くるみん認定・えるぼし認定等の要件を満たせばさらに5%が加算されます。控除額は法人税額の20%が上限です。最低賃金対応の賃上げも、要件を満たせばこの制度の対象になり得ます。

一方、山形県は「山形県賃金引上げ緊急支援事業」として、令和7年10月1日から12月23日までの間に時給1,032円未満の従業員の時給を64円以上引き上げ、その水準と雇用を1年以上維持する中小企業等に、従業員1人につき正規雇用で4万〜5万円、週20時間以上の非正規雇用で2万〜3万円(1事業者上限50万円)を支給しています。申請期間は令和8年2月20日から9月30日までの予定です。

注意点は、この支援金の要件に「賃上げ促進税制による控除を受けていないこと」が含まれていることです。両方を受けることはできないため、対象人数と法人税額を並べて、どちらが有利かを試算する必要があります。

実務ではこう見ています

ここ数年の最低賃金の上昇は、率直に言って著しいものです。私は、このペースが続くと、中小企業では意図せず最低賃金を下回る賃金が生まれてしまう状況に入っていると見ています。時給で払っているパートの話だけではなく、月給制の正社員、特に初任給に近い層で、時間換算すると最低賃金と数十円しか差がないケースが珍しくなくなっています。

今年の引上げをぎりぎりで回避できたとしても、それで終わりではありません。来年も今年と同程度の引上げがあれば、そのまま最低賃金違反になる可能性があります。仮に来年60円上がって1,152円になれば、年間休日120日の会社で必要な月給は約18.8万円、105日の会社では約20万円に達します(この試算は仮定であり、来年度の金額は決まっていません)。

したがって、最低賃金への対応は「10月に時給を直す」という単発の作業ではなく、毎年の賃上げを前提にした経営の問題です。その原資を確保するには、常に値決めに最大限の注意を払わなければならない、と私は考えています。人件費が毎年上がる前提で商品・サービスの価格を見直し続けなければ、賃金だけを上げ続けることはできません。最低賃金の答申が出るこの時期に、賃金表と価格表を一緒に見直す習慣をつけることをお勧めします。

まとめ

  • 山形県最低賃金は令和8年10月30日から1,092円(+60円)となる見込みです(答申段階)。
  • 月給制でも、月給÷月平均所定労働時間で判定されます。年間休日120日なら約17.9万円、105日なら約18.9万円(通勤手当等を除く)が下限です。
  • 高卒初任給やパート時給の統計と比べると余裕はほとんどなく、来年の引上げで割れる会社が出ると考えられます。
  • 賃上げ促進税制と山形県の支援金は併用できないため、事前の試算が必要です。

当事務所では、賃上げ促進税制と支援金の有利判定、人件費の上昇を織り込んだ価格設定や利益計画のご相談を承っています。賃金規程や労働時間の設計そのものは社会保険労務士の領域になりますので、必要に応じて連携先をご紹介します。気になる点がございましたら、お気軽にお問い合わせください。

(参考)山形労働局「山形県最低賃金を60円引上げ、時間額1,092円に―山形地方最低賃金審議会答申―」/厚生労働省「令和8年度地域別最低賃金額改定の目安について」/山形労働局「令和7年度版 山形県の賃金統計(PDF)」/山形県「山形県賃金引上げ緊急支援事業

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