【続報】非上場株式の新評価方式、計算式の詳細が判明 ― 5年分の残余利益と「しんしゃく率」

結論

非上場株式の評価見直しについて、続報です。税務通信3914号(2026年8月31日)の取材により、国税庁の見直し案の詳細が報じられました。

新方式の計算式は、直前期末の簿価純資産に5年分の残余利益の現在価値を加え、「しんしゃく率」を乗じる構造です。しんしゃく率という調整弁の存在が、今回はじめて明らかになりました。

あわせて、特定の評価会社の顔ぶれの再編案と、配当還元方式を「特定の少数株主」に縮小する案も判明しています。

なお、本記事の内容は専門誌の取材に基づく報道ベースです。国税庁の公表資料ではなく、今後の有識者会議と税制改正プロセスで変わる可能性があります。前回の記事(2026年8月26日公開)とあわせてお読みください。

判明した計算式

報じられた計算式の構造は次のとおりです。

評価額は簿価純資産と5年分の残余利益の合計にしんしゃく率を乗じて算出する ( ① 簿価純資産 直前期末・税務上の簿価 ② 5年分の残余利益 還元率で現在価値に割引 ) × しんしゃく率 水準は未定 評価額 残余利益 = 年平均利益 −(前期末の簿価純資産 × 還元率) 利益・配当は過去5年間の年平均額を使用

計算に使う記号の意味は次のとおりです。

記号内容
簿価純資産直前期末の純資産。税務上の簿価を使用する方向
利益過去5年間の年平均利益金額
配当過去5年間の年平均配当金額
残余利益各期の利益から「前期末の簿価純資産×還元率」を差し引いた金額。5年分を還元率で現在価値に割り引いて合計する
還元率株主が通常期待する収益率。上場株式を基準に算定
しんしゃく率波かっこ内の合計に乗じる調整率。水準は未定

各期の純資産は「前期末の純資産+年平均利益−年平均配当」として翌期に繰り越します。将来の予測値を使うのではなく、過去5年の平均額を機械的に転がしていく設計です。恣意的な業績予測が入り込む余地をなくす狙いと考えられます。

一見複雑ですが、使う数字は簿価純資産・過去5年の利益・配当だけです。決算書がそろっていれば計算できます。

収益力のない会社は、簿価純資産より安くなる

報道には興味深い試算が載っています。利益も配当もゼロの会社(簿価純資産=100)を新方式で評価すると、次のようになります。

利益も配当もない会社は還元率が高いほど簿価純資産より低く評価される。還元率2パーセントで91、5パーセントで78、10パーセントで62 利益も配当もない会社の評価額(簿価純資産=100とした場合) 還元率 2% 91(▲9) 還元率 5% 78(▲22) 還元率 10% 62(▲38) 点線=簿価純資産100の水準 ※ しんしゃく率を乗じる前の水準。当事務所で追算し、報道の試算値と一致することを確認しています

収益力がなければ残余利益はマイナスになるため、評価額は簿価純資産を下回ります。還元率が高いほど下がり幅は大きくなります。

これは事実上、事業用資産に対する評価減として働きます。現行の純資産価額方式には「継続企業なのに解散価値で評価される」という批判がありましたが、新方式では資産を持っているだけの状態なら簿価より安く評価される、という答えになっています。

「しんしゃく率」という新しい要素

第5回の公表資料にはなかった要素が、このしんしゃく率です。

報道によれば、還元率が上場株式を基準に算定されることなどを踏まえ、しんしゃく率の設定は「時価の算定として適正な範囲」で検討されるとのことです。上場株式と非上場株式の違いを調整する趣旨と読めます。

現行の類似業種比準方式にも大会社0.7・中会社0.6・小会社0.5というしんしゃく割合がありますが、新しいしんしゃく率が同じ水準になるとは限りません。水準次第で評価額全体が比例的に動くため、今後もっとも注視すべき数字といえます。

特定の評価会社の顔ぶれが変わる

純資産価額方式が残る「特定の評価会社」について、種類を再編する案が報じられています。

現行の特定の評価会社見直し案
比準要素数1の会社廃止(類似業種比準方式の廃止に伴い)
3要素全てが0の会社廃止(同上)
株式等保有特定会社「資産管理会社」として再編。範囲は今後の検討課題
土地保有特定会社同上
開業後3年未満の会社「開業後5年未満の会社」に拡大
開業前又は休業中の会社存続
清算中の会社存続(清算分配見込金に基づき評価)
―(新設)組織再編成直後の会社

「開業後5年未満」への拡大は、新方式が過去5年分の利益・配当を使う設計と平仄が合います。5年分の実績がない会社は残余利益方式で評価できないため、純資産価額方式に回すという整理と考えられます。

注目は**「組織再編成直後の会社」の新設**です。合併や会社分割の直後は簿価や利益の実績が組み替わるため、残余利益方式が正しく機能しません。組織再編を使って評価の前提をリセットする動きへの備えとも読めます。

これらの会社を純資産価額方式で評価する理由について、報道では「残余利益方式より純資産価額方式を適用する方が適切な時価評価になると考えられる会社」という整理が示されています。あわせて算式も見直され、従業員に係る退職給付引当金を一部条件付きで負債として取り扱う案が検討されているとのことです。現行の純資産価額方式では退職給付引当金は負債に計上できないため、実現すれば評価の引下げ要因になります。

配当還元方式は「特定の少数株主」へ縮小

配当還元方式の適用対象は、現行の「同族株主等以外の株主」から**「特定の少数株主の取得した株式」**に縮小する案が報じられています。算式そのものも見直されます。

前回の記事で「誰が対象外になるかは未提示」と書いた部分に、方向性が見えてきた形です。「同族株主等以外なら広く適用」から「特定の少数株主に限って適用」へ、入口の考え方が反転します。どのような株主が「特定の少数株主」に当たるのかは、まだ示されていません。

前回記事からのアップデート

第5回の公表資料と今回の報道を並べると、埋まった部分がよく分かります。

論点第5回の公表資料今回判明した内容(報道ベース)
計算式概念図のみ簿価純資産+5年分の残余利益の現在価値、にしんしゃく率を乗じる
反映年数「5年分が良いのではないか」との意見の注記5年分を用いる想定
しんしゃく率記載なし導入する方向。水準は「時価の算定として適正な範囲」で検討
簿価純資産の中身帳簿価額とのみ税務上の簿価を使用する方向
特定の評価会社範囲・基準は今後の検討事項種類の再編案が判明。「組織再編成直後の会社」を新設
配当還元方式適用範囲を見直し「特定の少数株主」に縮小し、算式も見直し
還元率の水準CAPMで算定とのみ具体的な水準は依然として未提示

実務ではこう見ています

前回お伝えした結論は、今回の詳報で変わりません。むしろ補強されたと見ています。分かれ目は株式が承継予定者に移っているかどうかであり、評価を下げただけの方は対策の組み直しが必要になる、という構図はそのままです。

そのうえで、今回の情報で付け加えたい点が2つあります。

ひとつは、しんしゃく率の存在です。評価額全体に乗じる調整弁が用意されたことで、「高収益企業の評価が青天井に跳ね上がる」という最悪のシナリオは、いくらか和らぐ可能性が出てきました。ただし水準は未定ですから、この数字が出るまでは影響額の試算はすべて仮置きです。

もうひとつは、「組織再編成直後の会社」の新設です。改正前に急いで組織再編をしておこうという発想には、はっきりと牽制が入りました。確定していない制度を前提に不可逆な再編を急ぐのはかえってリスクが高い、と前回申し上げましたが、その理由が一つ増えたことになります。いま進めて無駄にならない準備――簿価純資産と時価純資産の差の把握、過去5期の非経常的な損益の整理、株式移転の進捗確認――を粛々と進めておくのが良いと考えています。

まとめ

  • 計算式の詳細が報じられました。簿価純資産+5年分の残余利益の現在価値に、しんしゃく率を乗じる構造です
  • 利益も配当もない会社は簿価純資産を下回って評価されます(還元率10%なら▲38の試算)
  • 特定の評価会社は再編され、「開業後5年未満」への拡大と「組織再編成直後の会社」の新設が案として示されています
  • 配当還元方式は「特定の少数株主」に縮小する案です
  • いずれも報道ベースであり、国税庁の公表資料ではありません。しんしゃく率と還元率の水準が今後の最大の注視点です

制度の全体像と過去の事業承継対策への影響は、前回の記事「非上場株式の評価が60年ぶりに変わる」で解説しています。第5回会合の公表資料は国税庁ウェブサイト(PDF)でご覧いただけます。議事要旨は本記事の執筆時点で未公表です。公表され次第、確認して続報をお届けします。

当事務所では、非上場株式の評価と事業承継のご相談を承っています。新方式で自社の評価額がどう動くのか気になる方は、お気軽にお問い合わせください。

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